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第18回

「自分と違う意見の人」と向き合いながら未来を作る

治部れんげさん(Buzz Session所属)東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院 准教授

収録日:2023.06.14

治部准教授はジャーナリストとして20年以上、経済、企業経営、教育、家族問題、ジェンダー、ダイバーシティなどについて論じてきた経験を生かし、 DLab Buzz Sessionのメンバーとしてより広い社会との対話を目指しながら、「未来社会論」の授業を担当しています。学生たちが未来を考えるきっかけ作りをしている治部准教授に、DLabらしい未来志向を通じて何を伝えたいかを聞きました。

私は2021年4月から東工大のリベラルアーツ研究教育院で「未来社会論」という名前のついた4つの授業を担当しています。
主に学士課程1年生を対象とする「未来社会論A」では「子どもの視点で望ましい未来の社会を考える」、学士課程2年生が多く受講する「未来社会論B」では「ジェンダーの視点で望ましい未来の社会を考える」、学士課程3年生が多い「未来社会論C」では「働き方の観点で望ましい未来の社会を考える」、そして修士課程向けの「文系エッセンス:未来社会論」では「ケア労働の視点から望ましい未来の社会を考える」ことを目指しています。

 「未来社会論A」では実際に小中学生にクラスに来てもらい、受講生がプレゼンテーションをします。授業を受けたり本を読んだりして「子どもの視点」を「学んだつもり」になっても、それは「ごっこ」の域を出ません。たったひとりでも、実際の子どもを前に話をしてみると、その反応から学ぶところが大きいのです。
「未来社会論B」では、子どもやジェンダー政策を担当する内閣府副大臣や、男性の育休取得率が100%の大企業からゲストをお呼びしました。1980年代に男女雇用機会均等法を成立させるために奮闘した女性官僚の自伝も読みました。東工大の学生は合理的です。雇用における女性差別が合法であった40年以上前を非合理であり、人間的ではない、と率直に憤ります。公平さを求める学生たちの声をビジネスパーソンに伝えると説得力や希望を感じると言われます。つまり、学生の声には社会に働きかける力があるのです。

 「望ましい未来」を考えるために必要なのは、現状を的確に分析すること、それに過去から現在まで物事がどれだけ変化したか、歴史的な視点を持つことです。そのためには本を読んだり、多くの人の話を聞いたりすることが大事だと思います。さらに、自分にとって「望ましい未来」でも、他の大多数の人が関心を持たなかったり、反対していたりしたら、実現するのは難しいです。授業では、クラスメートと対話する時間を 多くもうけて「なぜ、そのように思ったのか」「あなたと意見が違う人は周りにいないか」「どんな風に話したら、無関心な人に関心を持ってもらえるか」の意見交換をします。
 中には「この授業で学んだことを、大学生協の食堂で友人にも話してみました」とか「親に話したら、この話は説得力があると言っていました」といった具合に、教室の外で意見交換を行い、それをレポートに書いたり話したりしてくれる受講生もいます。人が新しい考えに触れてそれを受け入れる過程では親しい人との会話がとても有効ですから、日常における実践は貴重な一歩だと思います。

 DLabを含む東工大コミュニティへ期待するのは、合理的ではない人や物事との交流や対峙です。長く大学の外で仕事をしてきた私にとって、若い人から偉い人まで論理が通じる東工大の中は、非常に仕事がしやすく心地よく思えます。しかし、このコミュニティの外には、論理では動かない慣習などが広く厚く横たわっています。論理が通じない物事にも向き合うことで、真に多様な意見を巻き込んだ、多くの人々にとって望ましい未来を目指し続けて欲しいと感じます。

プロフィール

1997年一橋大学法学部卒業。日経BP社にて記者を務めながら、2006~2007年にミシガン大学フルブライト客員研究員としてアメリカにおける共働き子育て夫婦の先進事例を調査。2014年からフリージャーナリストとして、メディア・経営・教育とジェンダーやダイバーシティについて執筆。2018年一橋大学経営学修士課程修了。教職としては昭和女子大学において、附属小学校内に学童保育をつくるプロジェクトや新しい授業、オンライン授業を検討する会議などにも参画した。2021年より現職。