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第19回

多様な人々が語り合う「対話の場」に、アートのアプローチを取り入れる

高尾隆さん(Buzz Session所属)東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院 教授

収録日:2023.06.28

高尾教授の専門はインプロ(即興演劇)と吹奏楽の指揮法・指導法で、ワークショップ形式で作品を創り上げていく活動を続けています。さらに、俳優以外に子ども、企業人、地域の人々などを対象にしたインプロのワークショップも手がけ、創造性やコミュニケーション力、リーダーシップの養成に取り組んできました。東工大ではインプロと吹奏楽のゼミやコミュニケーション論などの科目を担当し、DLabでは、未来社会のあり方を学内外の多様な方々と語り合うBuzz Sessionのメンバーとして活動しています。

私が初めてDLabの活動を経験したのは、シンポジウムとワークショップが一体となった参加型イベント「DLab Dialog Day 2023」でした。その時、私自身はまだDLabのメンバーではありませんでしたが、東工大の先生方や学生だけでなく、学外の有識者、企業、一般の方など多様な方々が、「よりよい未来社会を描く」という共通の目標に向け、対等な立場で生き生きと話し合っているのを見て、「素晴らしいな」と感じました。
DLabでは「社会を構成する多様な人々が対話をしながら、人々が望む未来のあり方を共に考えていく」取り組みを、主にワークショップの形式で続けてきました。DLabの立ち上げ以前から、東工大におけるワークショップの実践を牽引してきた中野民夫先生が2023年3月に退職され、その後を引き継ぐ形で加入した私の役割は、この「対話の場」を持続・発展させていくことだと考えています。

私の専門はインプロや吹奏楽の指揮法・指導法で、ワークショップの手法を用いながら、「コミュニケーションを通じ、メンバーの創造性を高めながら、1つの作品を創り上げていく」ことに力を注いできました。その過程で実感したのは、「良いものを創るには、創るプロセスを良くすることが必要だ」ということです。
対話のプロセスをより良いものにする上で、先ほど挙げた、メンバーの多様性や対等性は不可欠です。また、ありたい未来について考えれば、当然そこへ向かうにあたってさまざまな課題や困難も頭に浮かんでくるかと思いますが、悲観的にならず、ポジティブな姿勢で取り組んでいきたい。そのためには、参加する人々の間に、ユーモアやフレンドシップがあることが極めて重要になるでしょう。

こうした対話の土壌は、今に至るまでに中野先生が整えてきてくれました。私はそれをしっかり受け継いだ上で、これまで取り組んできたアートの手法によって「身体的なもの」や「感覚的なもの」も対話の場に取り入れながら、ありたい未来社会像についてもう一歩踏み込んで考えていくための役に立てればと考えています。
例えば演劇には、「自分が今まで経験していないことを、実感を伴う形で疑似体験できる」強みがあります。人間がよりよく生きるには、単に物的環境を整えるのみならず、そこで生きる人の「思い」や「感情」にも寄り添っていく必要があるでしょう。そこで、「演じること」を通して思い描いた未来社会をシミュレーションしてみると、そこに足りないものや変えた方が良い部分が見えてくるのではないかと期待しています。

東工大の強みである「テクノロジー」は、よりよい未来を実現する上で大きな力になります。テクノロジーとアートは一見遠く離れた分野のように見えますが、「アイデアに基づいて実験的なアクションを取り、その結果からフィードバックを得る、その循環でものを創り上げていく」という過程には共通するものがあると感じます。さらに、アートには自由な実験がしやすい分、挑戦し失敗から学ぶことが容易だという特長もある。アートとのコラボレーションは、DLabでテクノロジーを考えていく上でもプラスになるのではないかと考えています。
そうした異なる要素を掛け合わせながら、DLabってこんな面白いことをしているんだ、ということを学外の方にも伝えられたら嬉しいですね。

プロフィール

1998年東京大学 文学部 卒業。2004年一橋大学 社会学研究科 博士課程修了。東京学芸大学 芸術・スポーツ科学系准教授などを経て現職。大学のほか、学校、劇場、企業、地域などで即興演劇のワークショップを行うかたわら、俳優として舞台にも立つ。吹奏楽指揮・指導の分野では2016〜17年にノーステキサス大学音楽学部吹奏楽研究室客員研究員や現地吹奏楽団の客演指揮者などを務め、インプロの思想と手法を取り入れた吹奏楽教育の実践と研究を進めている。