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Social Innovation in Global Networks

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第10回

東工大千手観音で幸せな未来を

上田 紀行さん(Team Imagine所属)東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院長

収録日:2019.06.19

上田リベラルアーツ研究教育院長の専門分野は文化人類学です。2016年に設置されたリベラルアーツ研究教育院の初代院長を務め、東工大のリベラルアーツ教育を推進しています。東工大では学士課程から博士後期課程まで全ての課程でリベラルアーツ教育を行っています。少人数でのディスカッションやプロジェクトでの刺激的な交流の中で、世界を知り、自分自身の可能性を探求しながら、自ら問いを発し、感じ、考え、発言し、行動する力をダイナミックに養っていきます。これからの社会を牽引する真のリーダー育成を目指して、東工大のリベラルアーツ教育のチャレンジが続きます。このリベラルアーツ教育とDLabの活動には深いつながりがあると語る上田研究教育院長に、お話をうかがいました。

DLabでは、ワークショップなどで少人数でのグループワークを行い、人々が望む未来社会は何かを話し合い、「未来のシナリオ」を作成しました。2016年に始めた「東工大立志プロジェクト」は、学士課程入学直後から全学生が履修する必修科目で、大人数での講義とDLab同様の少人数でのグループワークを交互に行っています。そこでは自分が学ぶ技術や研究で「世界の貧困問題にチャレンジしたい」や「人々を救う医薬を創薬したい」など、大きな志を語る学生が増えてきました。これまでは、世の中のためになりたいと語ると、「変わっているね」と言われたり、「何を熱くなっているの」と冷笑されたりといった雰囲気がありました。しかし、講義やグループワークを通して本音を語り合うことで、自分の中にある志や将来の夢を自由に発言できる空気になりました。学生が、「こんなことを言っても良い大学なのか」と思えることが重要なのです。それが未来の社会をDESIGNすることにもつながると思います。

学士課程3年になると、これまでの教養教育で何を学んだか、それが今後どのように活きてくるかをレポートにまとめた「教養卒論」に取り組みますが、多くの学生が未来の社会について書いています。日頃から、「あなたがこれから学ぶ専門分野は社会にどのようなインパクトを与えるか」、「どのように社会に貢献できるのか」と問うているので、当然、未来社会のことを考えざるを得ないわけです。こういった学生達が進級をし、それぞれの専門とする研究室に入り、教養教育で学んだことを周囲に広げ、大学全体を巻き込んで欲しいと思います。

DLabの活動には学内の構成員だけでなく学外の方も参加しており、大学の中とは違った考えや感性をもたらしています。大学と社会が協働をし、刺激しあってお互いに変化し、自己発見を繰り返しながら潜在的な可能性を広げられればと思っています。

科学技術というものは千手観音だと思います。全ての衆生の苦しみを何としても救いたいという観音様の発願を、千手観音は千の手で救おうとする。千の技術が観音様の心を持って使われれば、人々のありたい未来が実現すると思います。DLabの活動がそのように発展していくことを期待しています。

プロフィール

1982年東京大学 教養学部 文化人類学科卒業、1989年東京大学 総合文化研究科 博士課程単位取得退学、2008年岡山大学 医歯薬総合研究科 博士課程修了、1993年愛媛大学 助教授、1996年東京工業大学 大学院社会理工学研究科 価値システム専攻 助教授、2007年同 准教授、2012年東京工業大学 リベラルアーツセンター 教授、2016年より現職