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第13回

技術の積み上げだけでは到達できない未来へ

新田 元さん(Team Create所属)東京工業大学 研究・産学連携本部 研究戦略部門長 (兼)地球インクルーシブセンシング研究機構 リサーチ・アドミニストレーター(URA)

収録日:2019.11.11

新田URAは、電気機器企業にて民生用ビデオ機器を中心に商品開発に従事してきました。電子回路工学、システム設計を専門としています。産学連携コーディネーターの経験を生かし、DLabと企業とを繋ぐ立場から未来社会への想いを語ります。

私が企業にいた時代は、電気機器がアナログからデジタルへと移行していく時期でした。映像がデジタル化するイノベーティブな瞬間に立ち会うことができ、DVD、ハードディスク、ブルーレイと何をやっても新しく、本当に多くの貴重な経験をしてきました。最先端の技術と向き合いながら同時にお客様の顔も見える。自分たちの生み出したものが世の中にどのように伝わっていくかを肌で感じることができたのです。それは同時に競争の最前線にいることでもあり、みんなが同じものを目指す中でいかに独自の工夫を凝らすか、魅力的な付加価値をつけていくかを追求する日々でもありました。世の中にないものを送り出し、真っさらな所で競争していくためには、最先端の技術を開発しながらマーケットも創造していかねばならないのです。理想のユーザーエクスペリエンスというものがまずあって、そこに到達するための技術をどうやって開発するかということを、日々考えて過ごしていました。思い返せば今から20年以上前に、既にバックキャスティングを実践していたのです。

その後、慶應義塾大学での産学連携コーディネーターを経て、よりテクロジーに近い環境で様々なミッションに挑みたいと思い、東工大へ移りました。昔からゼロから何かを作り出すことが好きだったので、未来をデザインするという活動は面白そうだと思い、DLab立ち上げ時からメンバーに加わりました。DLabの活動には多様な人々が参加しており、「そんな考え方もあるんだ」といった普段は思いもよらない意見を聞ける場となっています。異なるバックグラウンドを持つ人たちが集まり、それぞれの立場から様々な意見を交わし合い、そこから何かを創り出していくということにとてもやりがいを感じます。DLabにおいて、私がいちばん注力しているのは、描いた未来社会像をどうやって研究に落とし込んでいくかという点です。まさにバックキャスティングにあたる部分ですが、そこから更に社会そのものや社会システムにどのようにアプローチをするかというのは、私にとって本当に未知なところです。企業では数年後の未来を予測して商品を開発しますが、実現まで何十年もかかることに対して、企業と同じやり方では思うようには進まないという壁に今、直面しています。しかし、だからこそそこにチャンスがあると私は思っています。何十年も先の未来を考えて、その実現に向けて活動を続けていくというアプローチは大学にしかできないことです。バックキャスティングの精度を上げることや、技術をとことん分析・分解して潮流をつかむといったアプローチだけではダメで、リベラルアーツであったり、アートであったり、異なった視点の人たちと一緒になって考えていく場をどう作っていくか。それを考えることが真の文理融合であり、未来のビジョンを共有することに繋がると思います。そして、そこにこそDLabの醍醐味があります。対話があってこそ気づきがあり、ギャップを埋めていくヒントがある。単なる技術の積み上げでは到達できない未来を期待しています。

プロフィール

1988年東京工業大学 電気電子工学科卒業、1990年東京工業大学 大学院理工学研究科修了、ソニー株式会社勤務、慶應義塾大学産学連携コーディネーター、2017年東京工業大学 研究・産学連携本部 本部長付 (兼)地球インクルーシブセンシング研究機構 リサーチ・アドミニストレーター(URA)、2020年より現職。