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第15回

発想法の探究―未来社会のデザインのために―

鈴木 悠太さん(Buzz Session所属)東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院 准教授

収録日:2020.02.20

鈴木准教授は、教育学、学校改革研究を専門とし、「学校現場の声を聴き、学校現場から学ぶ」ことを大切にしながら、学校の内側からの改革の発展と支援について研究を進めています。担当する講義は、教職課程の授業や大学院の授業のほかに、東工大の教養教育のコア科目である、「東工大立志プロジェクト」や「教養卒論」の実施にも責任をもって取り組んでいる鈴木准教授に、DLabへの参加のきっかけや活動についての抱負を聞きました。

私がDlabに加わったのは、2017年度に学内で行われた2つの大規模なワークショップへの参加がきっかけとなりました。一つは、学内の理工系・人文社会科学系の研究者が集まって次世代の研究のあり方について話し合うものでした。もう一つは、学生、職員、教員、卒業生の方々が一堂に会して、東工大のより良い未来について話し合うものでした。これらは私にとって東工大の未来を考える上でとても良い機会となりました。特に、大学を、それを取り巻く外側の社会に向けて開くことと、大学の内側を開いていくことの双方の意義を感じました。大学を外側にも内側にも開く、こうした地道な取り組みを継続していくことが、10年、20年先のより良い東工大を準備することだと思いました。そこで、ワークショップの最後の発表の際に、参加者全員に向けて「こうした開かれた対話の機会を継続的に作っていきましょう」と率直な感想を述べたところ、それがきっかけとなり翌年に発足するDLabのメンバーとして声をかけて頂くことになりました。

未来社会をデザインするという営みを東工大がリードして、高校生、学生、職員、教員、そして市民の方々と幅広く対話を重ねながら実行していくというプロセスは、DLabの特徴の一つだと思います。私はDLabの中のBuzz Sessionというチームに所属し、そうした対話の機会をさざ波のように継続して作り出していくことに関わっています。

私がDLabに関わるにあたって着想したことは、かつて東工大の文化人類学の教員であった川喜田二郎先生が開発された「発想法」のアイディアを生かしたいというものでした。川喜田先生はその名が由来の「KJ法」がよく知られており、ワークショップが発展している現代においてKJ法は再び脚光を浴びていると思います。ただし、KJ法は、単に情報を整理したり、ワークショップを進めたりするための手段などではなく、その本質は、川喜田先生も繰り返し述べていた通り「発想法」にあります。つまり、今までに考えついたことのない新しいアイディアを「発想」するのがKJ法なのであり、それはとても困難な作業である、ということです。東工大のDLabにおいて未来社会をデザインする営みにおいて、川喜田先生の「発想法」から今一度私たちが学ぶことは多いと思っています。

私の専門である教育学という学問は、学校のことだけを考えているのではなく、より良い未来の社会を建設するために、学校や教育という営みがあるという視点を大切にしていると思います。その社会のデザインにおいて、「民主主義」は大切な概念であると思います。すべての人々がその社会の主人公である、という社会の在り方を示す概念です。このことについてもDLabの活動の中で考えていきたいことです。

現在、DLabの理念や活動は、東工大の教育においても生かされ始めています。直接的には、DLabのメンバーが担当する学士課程向け授業「未来社会デザイン実践」や大学院課程向け授業「未来社会デザイン論」があります。また、今後は、東工大の教育の伝統でもある教養教育においてもDLabの理念や活動が生かされていくと思います。全東工大生の必修授業である学士課程1年目の「東工大立志プロジェクト」は、まさに自身の志を、実現したい未来社会において構想する授業ですし、5000字から10000字の論文を執筆する学士課程3年目の「教養卒論」では、自らの探究したい主題を未来社会の構想の中で設定し論じるからです。今後も、未来の社会をデザインするという発想が、東工大の研究や教育をより良くし、社会の発展につながっていく道を探っていきたいと思います。

プロフィール

東京大学 教育学部卒業、東京大学 大学院教育学研究科 修士課程修了、東京大学 大学院教育学研究科 博士課程修了 博士(教育学)。東京大学 特任講師を経て、2017年より現職。主著に『教師の「専門家共同体」の形成と展開―アメリカ学校改革研究の系譜―』(2018年、勁草書房)(2019年日本学校教育学会賞)。