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2024.0328

開催報告

社会と共に未来を考えるイベント「DLab Dialog Day 2024」を開催

News & Topics

社会と共に未来を考えるイベント「DLab Dialog Day 2024」を開催

DLabでは社会が望む“ありたい未来”の実現に向け、多面的な取り組みを続けてきました。2024年1月27日、その活動を広く共有するシンポジウムと、共創ワークショップ「DLab Drama & Dialog」からなる2部構成のイベント「DLab Dialog Day 2024」を開催しました。東工大大岡山キャンパスのHisao & Hiroko Taki Plazaを舞台に※、学内外からおよそ100人が参加したこのイベントの模様を紹介します(登壇者・参加者の所属・職名はイベント開催当時のものです)。
※ シンポジウムの部はオンライン配信も実施。

プログラム

●シンポジウム

1. “Introduction & Activities” (DLabの2023年度の活動紹介)
2. “未来社会の種”—学生の描く未来社会像—(「未来社会デザイン入門」受講生による未来社会像の発表と講義に参加した「DLabパートナーズ」の紹介)
3. “未来研究の芽”—未来社会を創出する研究を支援—(研究助成金「DLab Challenge」と「DLab Challenge Advanced」の採択者による研究紹介&パネルトーク)
4. クロージング

●共創ワークショップ「DLab Drama & Dialog」

1. オリエンテーション
2. キーノートスピーチ「未来シナリオに込めた想い」
3. グループワーク(未来シナリオが現実となった世界をドラマ化し自分事として考える
少人数のグループによる創造的な対話)
4. クロージング

シンポジウム-1. “Introduction & Activities”

午前中に行われたシンポジウムは、DLab機構長を務める佐藤勲さん(総括理事・副学長)による開会の挨拶とDLabの活動紹介からスタートしました。

「DLabとは何かを一言で説明すれば、『皆さんが望んでいる社会を実現するための仕組み』だと言えると思います。本日のイベントを通して、“ありたい未来”をDLabがどう実現していくのかを体感してみてください」
そんな挨拶に続く活動紹介では、「人々が望む未来社会の姿を、社会と共に考え、デザインする」というDLabの目標や「東工大未来年表」「TRANSCHALLENGE社会」といった成果、更にその未来社会像の実現に向けた取組みなどが紹介されました。
最後に「ありたい未来社会をデザインするため、多様なメンバーで楽しく真剣に未来について語り合うのがDLabの特徴です。ぜひ皆さんも楽しみながら未来について考えてみてください」と参加者へのメッセージが語られました。

シンポジウム-2. “未来社会の種”—学生の描く未来社会像—

第2のセッション“未来社会の種”では、「社会・次世代への働きかけと意識改革」の一環として行われる授業「未来社会デザイン入門」の内容や成果物、授業に参加した学生の思いなどが紹介されました。

この授業では、グループ学習を行いながら望ましい未来の社会のあり方を考え、「未来新聞」の形で発表します。セッションでは、最初にDLabのメンバーとして授業を担当する柳瀬博一さん(リベラルアーツ研究教育院教授)が授業のポイントと「SDGsに関する学習と発表や、協力企業が行うビジネスと未来戦略についてのプレゼンテーション聴講などを通じて、未来を見る目と発信力を養いながら未来社会の姿を考え、新聞の形にまとめて発表する」という授業の大枠の流れを語りました。

さらに、同じく授業を担当したDLabメンバーの治部れんげさん(リベラルアーツ研究教育院准教授)が、実際に未来新聞がどう作られていったかを説明。続いて受講した学生3人が制作した新聞の記事や広告について発表しました。発表では「人型AIロボットが世界の人口を超え、人間が運動不足に陥る」「重要な情報インフラとして各国政府が管理するネットワークの制御を奪うことで、世界を征服し得る時代が到来する」といった記事や、3Dプリンタを活用して配送先で実物を出力することで物を送る宅配便の広告の内容、その内容を考えたきっかけや紙面作成に使った生成AIの活用方法などが語られました。

発表後のフリートークでは、授業に参加したDLabパートナーズのメンバーに感想を聞く場面もあり、「自分とはまったく異なる学生の発想に刺激を受けた」「授業全体の流れが素晴らしく、当社が未来を考える上での参考にしたいと思った」などの意見が聞かれました。また、会場のDLabメンバーからも、新聞について多数のコメントや質問が寄せられました。

シンポジウム会場となったホールの周囲には、学生8チームが作成した新聞が掲示され、工夫を凝らした見出しや自由な発想が伝わる記事に多くの参加者が見入っていました。

シンポジウム-3. “未来研究の芽”—未来社会を創出する研究を支援—

DLabでは2020年度から、DLabが提示する「ありたい」未来社会像の実現につながる研究を「DLab Challenge」と名付けた学内研究奨励金によって支援しています。また2023年度からは、将来の研究拠点化や外部の大型資金プログラム獲得を目指すといった規模感をもって未来像実現に取り組む研究を支援する「DLab Challenge Advanced」も開始しました。

セッション“未来研究の芽”では、DLab副機構長の大竹尚登さん(科学技術創成研究院長)によるこれら研究支援の概要説明の後、2023年度に支援対象となった研究のうち2件について、研究代表者によるプレゼンテーションが行われました。以下にその詳細を紹介します。
 

【「DLab Challenge Advanced」採択研究】

●研究テーマ:「YOUTH SANCTUARY(ユース・サンクチュアリ):メタバース上での青年期自己発展支援連働プラットフォーム」

 研究代表者:梅室博行さん(工学院 経営工学系 教授)
匿名性が担保され、場所の制約を受けないメタバース上に、青年の育成・見守りを行うプラットフォームを構築し、学校、家庭、行政などがそこへ動的に連携しながら参加することで、中高生、大学生をはじめあらゆる若者の駆け込み寺となる安全地帯を形成する。技術、心理、教育、公衆衛生など多様な分野の研究者の協働により、「人や社会のwell-beingを実現するため、どんな技術をどう作り、どう使えばいいか」を実証的に解明することを一番の目標とし、全体設計や各種サービスの有効性の検証、ステークホルダーの連動の仕組みづくりなどを行う。

【「DLab Challenge」採択研究】

●研究テーマ:「造礁サンゴと褐虫藻が地球環境に寄与するメカニズムをバイオ、化学、材料科学、シミュレーションの多面的視点からひも解く」

 研究代表者:加藤明さん(生命理工学院 生命理工学系 准教授)
光合成を行う褐虫藻と密接な共生関係を持ちながら、「海のゆりかご」として豊かな生態系を支える造礁サンゴ類のメカニズムを、多面的な視点から説き明かす。具体的には、「生命」「環境」をキーワードに多彩な背景を持つ研究者が集まり、電気生理学、比較ゲノム解析、光化学反応のモデル化など各自が得意とする多様な分析手法を用いた研究を行うことで、サンゴ礁における炭酸カルシウム骨格形成、二酸化炭素固定、共生と物質交換などの研究を展開し、サンゴ礁の保全と白化防止に対して新たな視点の創出を試みる。

それぞれの発表の後には参加者との質疑応答も設けられ、セッションの最後には、大竹副機構長を進行役とし、DLabメンバーとして採択研究の審査にあたった倉持隆雄さん(科学技術振興機構研究開発戦略センター 副センター長)と杢野純子さん(株式会社トレイル副代表)によるパネルトークも実施されました。
トークでは、倉持さんから「社会的な課題の解決を目指して分野の異なる研究者が協力しながら問題の本質に迫るこうした研究の取り組みは、今までの研究の世界ではあまり例がなかった。そうした取り組みをDLabが促進し、支援できているのは大変良いことだと思う」という発言がありました。続けて杢野さんが「ありたい未来の実現に向けた研究を行うには、多様な分野の研究者が協力していく必要があり、今後は研究活動のあり方がそう変化していく可能性も高い。東工大で研究に取り組む方は、学生さんを含めぜひその事実を認識し、実行してほしい」と語り、大竹副機構長が「専門性を持つ人がどう連携していくかが今後の鍵」とまとめたところで、セッションの幕が閉じられました。

研究課題を紹介する梅室さんと加藤さん

シンポジウム-4. クロージング

シンポジウムの最後には、佐藤機構長が再び登壇し、閉会の挨拶を行いました。佐藤機構長は「1つの分化した知識だけでは、我々が望む社会を実現するのは不可能であり、多様な分野の人達が協力して知識を紡いでいくことが大切」と改めて連携の重要性を指摘し、「そのための舞台をつくることが、DLabの役割だと考えています」と語りました。さらに、東工大が東京科学大学になってからもDLabの活動は大学の中心的な取り組みであることと、またDLabを通じて大学として社会により大きく貢献していきたいという思いを述べ、午前のシンポジウムを締めくくりました。

共創ワークショップ-1. オリエンテーション

午後の共創ワークショップ「DLab Drama & Dialog」は、学内外から約60名が参加し、対面のみで実施されました。

最初にDLabメンバーとしてワークショップ全体のファシリテーターを務める高尾隆さん(リベラルアーツ研究教育院教授)、伊藤亜紗さん(科学技術創成研究院 未来の人類研究センター長、リベラルアーツ研究教育院教授)、鈴木悠太さん(リベラルアーツ研究教育院准教授)によってオリエンテーションが行われ、ワークショップの全体像について説明がありました。

共創ワークショップ-2. キーノートスピーチ「未来シナリオに込めた想い」

続くキーノートスピーチでは、伊藤教授と鈴木准教授の進行により、大竹副機構長と、DLabメンバーとして未来社会DESIGN機構特任准教授も務める博報堂の根本かおりさんが、未来シナリオを創り上げた過程や、シナリオへの想い、今後の展望などについて語りました。

まず、未来シナリオの策定で中核的な役割を果たした根本さんが、策定の手法について解説。技術の進歩や社会の変化も踏まえた上で、“予測できる未来”“ありたい未来”など複数の視点から多様な未来の姿を描き、そこで得た多様な“未来の粒”を、シナリオ化してまとめることで作り上げたと説明しました。

また大竹副機構長は未来シナリオ策定の背景としてDLabが設立された経緯について語り、設立に先立って理工系・人文系を含む学内の全部局の研究者が分野を超えて未来の研究について考える活動があったことを紹介。東工大の研究者の知見を出発点としながらありたい未来像が検討されていることが、DLab未来シナリオのほかにはない特徴だと述べました。

話の中盤では、未来シナリオの位置づけについて鈴木さんから「2023年度のDLab Challengeに採択された2つの研究は、研究を進める中で課題を発見したり、王道を外れたところから新たな王道を創り出したりとする意欲的な取り組み。未来シナリオはそうした自由度の高い研究活動の起点として、DLabが研究の自由を擁護するための核となっている」という指摘がありました。

指摘をきっかけに、DLabが未来を描く上で用いるバックキャスティングに話題が移っていきます。バックキャスティングは「望む未来像が起点となって、それに必要となる技術や現在すべきことを考える」という手法で、その利点として、「現在を起点にして未来を考えると今ある制約にとらわれがちになるが、ありたい未来を起点に考えると現状に縛られずに『実現に向けて何ができるか』という考え方がしやすい」ことが挙げられました。
また伊藤さんからは、「DLabは未来社会の姿を描くだけでなく、それを実現させる研究という手段を持っていることが強み」「東工大は組織間の壁が低く、分野を超えた研究も行いやすい」といった指摘がなされました。

未来シナリオは、学内外の多様な参加者によるワークショップや、企業や公的機関が出している未来予測などを通して得られた110を超える未来の粒=未来要素を、長い時間をかけて収斂したものです。
トークの終盤では、そこに多くの人の想いとアイデアが込められていることが紹介されると同時に、技術の進化や社会の変化に合わせてシナリオを更新していくことの重要性や、後に続くグループワークがそのための手段の1つであることが語られました。

共創ワークショップ-3. グループワーク

キーノートスピーチの後は、共創ワークショップの中核となるドラマ作成と対話のグループワークに入ります。最初に導入として4〜5名の14グループに分かれた参加者がそれぞれ自己紹介を行った後、ワークショップスペースの壁に掲示された未来シナリオ24点をグループごとに見て回りました。

その後、参加者は自由な発想のための頭のウォーミングアップと身体表現のためのウォーミングアップを経て、未来シナリオのドラマ化に取り組みます。どの未来シナリオを担当するかはくじで決められ、そのシナリオが現実となった場面を表現する1〜2分程度の寸劇を制作しました。
例えば未来シナリオ06の「『あえて接続しない』権利が社会的に尊重される」をドラマ化したグループは、ネットワークを介して自分の行動が周囲に筒抜けになっている状態をホラーテイストで描いた後、「つながらない環境」の素晴らしさを表現。ほかにもロボットに見えた登場キャラクターが実は人間だったというショートショート風の作品、AIとのやりとりをコメディータッチで描いて何度も観客の笑いを誘った作品など、シナリオを題材としながら工夫を凝らしたストーリーの寸劇が次々と発表されました。

全作品の上演が終わると、参加者は各グループの作品についての感想をそれぞれ付箋に書いて未来シナリオのポスターの上に貼り、グループごとに感想を見ながら振り返りを行いました。さらにその後は2つのグループごとにチームを組み、互いのグループの作品に対する感想や、そのほか印象に残った作品、ワークショップを通じて学んだことについて対話しました。

未来シナリオを入念に読み込みながら、それが現実となった状況をドラマとして描き、自ら演じ、ほかのグループ作品を見ることによって、具体的にイメージしていく——。そんなDLab初の試みとして行われた共創ワークショップDLab Drama & Dialogは、大きな盛り上がりのうちに幕を閉じました。

グループワークを可視化して対話できるよう、グラフィックレコーディングが制作されました。(グラフィックレコーダー:清水淳子さん

共創ワークショップ-4. クロージング

こうしてDLab Dialog Day 2024のメインセッションがすべて終了したところで、東工大の井村順一理事・副学長(教育担当)が閉会の挨拶を行いました。

井村理事は1日を通じた感想を述べた後、参加者に対して「今日考えた『未来の社会』というのは、皆さんがこれから、自分の力で創っていくことができる社会です。ですから今後も『どんな未来を創りたいか』についてどんどん考え、対話していってほしいと思います」と語りかけ、登壇者と来場者に対する感謝の言葉と共に挨拶を終えました。

DLab Dialog Day 2024では、DLabが提示する未来社会像の中核となる未来シナリオをはじめとするDLabの活動により強く焦点を当てる形でプログラムが組まれ、社会人、教員、学生など立場も年齢も異なる学内外の多様な参加者が対話を行いました。その結果、「未来を起点とした自由な発想」「立場や研究分野の違いといったボーダーを超える活動」というDLabの特徴が、より鮮明に浮かび上がる形となりました。
DLabでは、秋に控えた東京医科歯科大学との統合という大きな節目を期に、今後も社会との連携もいっそう深めながら、未来シナリオのアップデートやその実現に向けた更なる活動を進めていきます。